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都市の分散型水管理と日常の暮らしを豊かにすることをいかに結びつけるか

 

 

都市計画学会九州支部Web「支部活動」に寄稿しました。

 https://www.cpij.or.jp/kyushu/sibukatudou/news-h29.html

■平成30年度 支部トピックス 7月号

 

 

 

 「都市の分散型水管理と日常の暮らしを豊かにすることをいかに結びつけるか

~福岡市樋井川のミズベリング活動の試み~」

 

この原稿を書いている今も西日本豪雨の被害は続いています。あまみずは飲み水として、

また米や野菜を育てるものとして、日頃意識しないながらも私たちはその恵みを授かって

いますが、時として暮らしそのものを一変させてしまう存在にもなることを、

災害が起こるごとに実感させます。

しかし、また時間が経つにつれ、防災への意識は薄まっていくことは避けられない事実です。

 

どのようにしたら、非日常に起こる水害への意識や備えを、日常的に継続できるのでしょうか。

日常の暮らしを豊かにすることに結びつけられれば、

普段は意識しないながらも水害対策を継続できるのでしょうか。

これらの問いに対する答えを探る試みとして、

ミズベリング樋井川のコミュニティ活動に取り組んでいます。

 

福岡市の油山から博多湾までを流れる樋井川(ひいかわ)でも、

2009(平成21)年7月24日に沿川地区で内水氾濫が発生し、長尾、田島、そして鳥飼地区で

410戸が床上・床下浸水しました。

この水害対策として「樋井川流域治水市民会議」が樋井川流域の住民と行政関係者、

大学の研究者らで当初発足し、2016年4月からは「ミズベリング樋井川」として

分散型水管理に関わる様々な関係者と関わるべく展開し現在に至っています。

 

ミズベリング樋井川では、毎月、会議(学習会と話し合い、活動報告など)と

樋井川さんぽ(自然観察、水遊び、ごみ拾い)が行なわれます。

学習会では、大人も子どもも楽しく学ぶことに配慮しながら、

水循環に関する科学と経験知の共有を行ない、

非定期で分散型水管理の要素技術である雨庭(あめにわ)や

各戸雨水貯留活用施設の見学と実装を行なっています。

 

分散型水管理とはあまみずをなるべく目に見える形で浸透や貯留させ、

一挙に地下や川に入れない考え方で、各戸で自立型の水システムを作り

震災・渇水時等に備えられる、

またあまみずの恵みと災いへの意識、節度ある生活感覚の形成につながります。

水害対策は単目的では広がらないことを意識し、

樋井川を軸とした地域の話題や活動の共有も行なっています。

参加者がさらに新たな参加者を呼び、多様な参加が実現し、分散型水管理の

実装も広がっています。

 

そもそもミズベリング樋井川では、そもそも最初に何をやる集まりなのか、

はほどほどにしてスタートをしました。

その方が、参加者のボトムアップにより、持続可能な活動形態を築けるのではと考えたためです。

今後も参加者の主体性と創造性を尊重して活動していく予定です。

またミズベリング樋井川には特定のメンバーシップや規約がなく、いわゆる組織ではなく、

個人やグループが集まる活動や話し合いの場、という形態を取っています。

参加の敷居を低くし、自由度の高い持続可能な活動形態を意識して、

組織化を避けているところがあります。

 

そのような中、会議以外で定期的な活動になりつつあるのが

「水辺で乾杯」と「樋井川さんぽ」です。

「水辺で乾杯」は全国のミズベリングの共通行事ですが、

樋井川ではあまみずの恵みと災いを実感しながら、

上流から下流まで流域の人がつながる機会として年々試みを蓄積しています。

「樋井川さんぽ」は上ナガオテラス(地域交流space)で活動する

ママたちのグループが主導しており、子どもは自然観察や川遊び、

大人はその見守りとごみ拾いを組み合わせた形式に発展してきています。

現在、上ナガオテラスでは、分散型水管理の実装がDIYで行なわれているところです。

 

川を触媒とした新しいコミュニティ活動の試みはまだ始まったばかりですが、

着実に広がりを見せつつあります。

さらにローカルビジネス、医療・福祉、教育など様々な地域活動と

ヨコ割りでつながっていけるか、多様な世代の関わりを継続していけるか、

試みは継続中です。